走れなちょす
なちょすは激怒した。必ず、かの邪智暴虐のよっつを除かねばならぬと決意した。
なちょすには店の場所がわからぬ。なちょすは、よっつの同居人である。家にこもり、ネットで遊んで暮らして来た。けれども送迎に対しては、人一倍に敏感であった。
きょう未明、なちょすは家を出発し、野を越え山越え、一里離れた此の駅前にやってきた。なちょすには土地勘も、方向感覚も無い。地理に疎い。先の冬から、陽気なよっつと二人暮らしだ。
よっつは、会社の或る集まりで、飲み会を行う事になっていた。その宴の終わりも間近かなのである。なちょすは、それゆえ、アッシー君の役割を果たしに、はるばる駅前にやって来たのだ。
先ず、駅までの道順を確かめ、それから街の大路をのろのろ走った。なちょすには長年の相棒があった。ホンダのライフである。ナビゲーションも搭載されている。その機能で、これから迎えにいくつもりなのだ。久しく使っていなかったからか、操作がおぼつかなかった。走っているうちになちょすは、よっつの返事を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に22時を過ぎて、出来上がっているのは当りまえだが、けれども、なんだか、酔いのせいばかりでは無く、LINEの返事が、やけに遅い。短気ななちょすは、だんだんイライラして来た。
待ち合わせ場所で落ち合ったよっつをつかまえて、何があったのか、もう帰るだけなのだから、荷物を持っていないとおかしい筈だが、と質問した。よっつは首を振って帰らないと告げた。しばらく問答してよっつに対し、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。よっつは陽気に笑うだけだった。
なちょすは両手でよっつのからだをゆすぶって質問を重ねた。よっつは、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「今から会社の、二次会があります。」
「なぜあるのだ。」
「親睦を深める、というのですが、誰もそんな、他人行儀なものなど居りませぬ。」
「たくさんの人が集まるのか。」
「はい、上司の方と。それから、他県の方も。それから、先輩の方も。それから、なちょすも。」
「おどろいた。よっつは乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。皆によっつの同居人を見せてみたい、と思うのです。このごろは、なちょすをお披露目して驚かせたいと、いつか飲み会に招くことを決意して居りました。この願いを拒めばよっつは参加を表明したはずの二次会に参加せずに帰ることになり、人としての常識を疑われます。きょうは、一緒に飲みましょう。」
聞いてなちょすは激怒した。
「呆れたよっつだ。行くしかなかろう。」
なちょすは、単純な女であった。
顔面を、ノーメイクままで、のそのそスナックにはいって行った。たちまち彼女は、よっつの会社の方に歓迎された。勧められて、なちょすの手中にはマイクが握らされたので、騒ぎが大きくなってしまった。なちょすは、THE ALFEEの星空のディスタンスを歌った。
(以下略)
そんなわけで以前、このような経緯でよっつの会社の方々と盃を交わしつつ、親睦を深めました。
思えば当時はとても緊張したものです。なんせ、相手方との共通項がよっつのみという過酷な状況。そんな四面楚歌・背水の陣・暗中模索な環境でもめげず、接客業で培ったコミュニュケーション能力をフル活用して、なんとか切り抜けました。どんなピンチの時も絶対諦めない。そう、それが可憐ななちょすのポリシーなのです。
しかも、その奮闘ぶりが功を奏したのか、好感度と印象力のゲージがMaxを振り切ったようで、以後もお酒に席に度々招いていただいています。その場に燦然と輝くなちょすはまさに一番星の如し。綺羅星っ☆
ちなみにその後、よっつの先輩であるIさんを伴い3人で我が家に向かい、0時くらいに就寝、5時に起床。2人を叩き起こして、Iさんを送り、その足で長崎まで向かいました。道中のよっつは終始、助手席で幸せそうに寝ていました。
途中、さすがに100kmを超えたあたりで私も疲れてきたので、よっつにお願いしてSAで運転を交代してもらいました。
が、しかし。走り出し僅か5分そこそこで「眠気が…眠気がやばい…」とゲームのモブキャラのように、いくら話題を振ってもうわ言のようにそればっかり繰り返すようになったので、すぐさま次のPAでバトンタッチしました。
うちの貴族はいつだってマイペースなのです。
今年はどこに行くことになるか、今から貴族長よっつの提案にワクワクしておりますが、さすがにまた100km運転してよ!って言われたら、全力で断りたいと思います。
なんせ私は、はっきりと「NO!」と言える日本人を目指していますから。